亜久津を好きになってみて1週間たった。生活に少し変化が見られた。
亜久津を目で追ってみたりやたら絡んでみたり。彼はあたしを無視するけど。
ムリに好きになろうとしているわけでもなくごく自然に彼のことを好きになっている。
自分の気持ちがもう、そういう方向になっている。
そんな変化にあたしは寧ろ心地よさを感じていたので、
よっぽどあたしは刺激に飢えていたんだろうなと思った。
亜久津はあたしのことを何か変な物体でも見るような目で見てくる。
多分、屋上でのあたしの言動が原因なのだろう。自分でまいた種とはいえ、なんだか気持ち悪い。
けれども、きっと、亜久津も本当はあたしと同じようなことを、思っていたんじゃなかろうか。
それはあたしの推測にすぎないから、本当のことは何もわからないけれど。


その日珍しく授業に出席していた亜久津に向かってあたしは
「話があるから昼休み屋上に来いコノヤロウ」と書いた紙くずのような手紙を亜久津に投げた。
亜久津は紙をひろげてそしてくしゃくしゃにして自分の机の隅に置いた。
てっきりその辺に捨てるかと思った。意外と常識がある男らしい。また少し好きになった。


昼休み、いつも一緒にご飯を食べているトモダチ(あの妊娠した子)には適当に理由をつけて屋上へと向かった。
彼女は一学期が終わると同時に学校を辞めることになった。妊娠していることはあたし以外知らないらしい。
他人の未来にあまり興味はないけれど、彼女には幸せにしてなってほしいなあと素直に思った。



屋上にはあたししかいない。一人で風に吹かれ弁当を食べるというこの状況。
ああ、おそらくリストラくらって嘘出勤してるおっさんが公園のベンチで弁当食べてた光景を思い出した。
弁当がプラスチックの弁当箱で、ああ、奥さんの手作りなんだろうなあと思うとなんだか急に切なくなってしまった。
おっさんは今どうしてるだろう。しみじみとしていると亜久津が現れてビックリしてしまい
ペットボトルに入ってる水を少しスカートに零してしまった。亜久津を呼び出してるってことをすっかり、忘れていた。



「あ、ごめん。呼び出していたということを忘れてた。」
「テメェが呼び出したんだろうが。」
「そうなんだけどね。一人で風に吹かれ弁当を食べるというこの状況、どこかで覚えが
ないだろうかと思っていたらリストラくらって嘘出勤してるおっさんが公園のベンチで
弁当食べてたなーって。ちょっと切なくなっていたところに亜久津がきたわけ。
ああ、もう、スカートに水が零れちゃった。」
「用ないんなら帰る」
「用ならあるある!あるの!!
亜久津最近あたしのこと変な目で見てるでしょ!あれやめて!なんか変な感じするから!」
「あぁ?!見てねーよ!オマエなんか見てねえよ!」
「オマエじゃない!だ!!!!!!!!!!わかったか!!」
「オマエッ・・・、そういうところが気持ちワリィ・・・・・・ッ!!!!!」




あたしは亜久津の口を塞いだ。





「なにしやがんだテメェ!!!!!!!」
「顔、真っ赤だよ、亜久津。」
「・・ッ!!!!」
「あたし亜久津のこと好きでどうしたらいいのかわかんなくて
けど亜久津がなんか変な目で見てくるしそりゃあたしキモイけど
そこまで変な目で見なくたって良いじゃん!!あほぼけかす!!!!」


緊張と「好き」の気持ちが溢れ出した所為で涙がボロボロと零れて
コンクリートの床に染みがポツポツとできた。
なんでこんなに「好き」が溢れるのか、わからない!
平凡な毎日を打破したくて、軽いノリで好きになってみるかーって思ってたのに、
気づいたらすごく好きになってる!!
思い込み激しい性格だから?


もう、そんなこと、どうだっていい!!



「好きなんだもの、しょうがないじゃない」



亜久津はどうすればいいのかわからないみたいで少しうろたえている。
けれど、赤子をあやすようにあたしを抱きしめて背中を撫でてくれた。
ふと顔を上げて彼を見ると鋭い目がいつになく、優しさで溢れていた。
もしフラれたって、一回だけならセックスしてくれるのかな。
変に冷静になったあたしの脳内ではそんなことが考えられていた。
もう、そんなこと考えてる時点で冷静じゃないのかもしれないけど。
本能はいつでも自分勝手。理性を蹴り飛ばす勢いで本能はあたしの体を駆け巡る。
あたしは亜久津にもう一度キスをした。彼は何も言わなかった。
あたしを抱きしめる手に力が入っただけだった。







轟音と共に立ちはだかる

大きな壁をなぎ倒す