顔はそれぞれ違う。 けれどあたしはどれほどあなたと同じ顔になりたいと思っただろう。 あなたはあたしの理想形。 イン・マイ・ リキッドルーム 「芥川君、起きて。部活の時間だよ。跡部君怒っちゃうよ。」 芥川君はよく寝る男の子だ。寝る子は育つというけれど、あまり身長は高くない。 あたしよりは当然高いんだけどね。あたしは芥川君がほうっておけなくて、 気がつけば彼のお世話係のようなものになっている。放課後になると芥川君を起こして、 テニス部の部室まで送り届ける。跡部君は少し済まなさそうに「これからも頼んでもいいか」と言われて 断れなかったというのもあるけれど、何よりあたしは芥川君の顔が好きだった。 「、今日は俺起きてるんだけど。」 「寝てるフリしてたの?」 「そういうコト。」 「どうして?」 「が普段どうやって俺を起こしてるのか気になってさ。」 「普通に起こしてるわよ。」 「でも逆効果なんだよね、の声って眠くなるから。」 今日の芥川君を、あたしは知らない。 今までは寝ているかとってもハイテンションな時しか 見たことが無いから。今の芥川君は、とても変だ。 あたしの気持ちを見透かしているような気がしてハラハラしてしまう。 「じゃあもう、部室まで送り届けるのはやめようか?樺地君に言っておこうか?」 「なんで?そんなことする必要ないんじゃない? だっては俺のこと好きでしょ?正確には顔が好きみたいだけど。」 「え?」 「だって、俺知ってるよ。が宍戸に話してるの。宍戸とこの前ちょっとだけ話してたでしょ。」 いつの間に聞かれていたのだろう。 つい先日、宍戸君に「オマエ、よくジローの世話できるよな。」って言われたときだ。 「世話っていうか、起こして部室に送り届けてるだけよ。あたし、芥川君の顔がすごく好きなの。」 とあたしは宍戸君に言ったのである。宍戸君はそれを聞いてとても変な顔をしていたっけ。 彼の顔の造形は本当に美しく、 ミケランジェロのダビデ像の様なのだ。 均整のとれた体格と接続した 美しい顔、顔、顔。 嗚呼、あたしはあなたの顔にどれだけ成りたいと思っただろう。 もし自分がそれだけ美しいのなら、あたしはきっとこの、 性格の悪さを、したたかさを、掻き消せる気がするのだ。 ふと、気がつくとあたしの唇に芥川君の唇が重なってあたしたちはキスをしていた。 あたしはどうしていいかわからなかったしそれにファーストキスだったから、 ただ固まっているだけだったのだけど、芥川君は巧妙に舌を動かしてあたしの 口内を支配していく。息ができなくて窒息しそうになるけれど芥川君はやめてくれなくて、 あたしはやっとの思いで顔を背けてキスを中断させた。 「なに、してるの。」 「顔真っ赤だよ?俺にキスされて嬉しかったの?好きな顔だから?」 「芥川君、いったい何がしたいの?」 「をいじめたいなーと思って。だって、俺は君のこと優しくていいな、好きだなって 思っていたのに、は俺の顔しか見てないじゃん。ちょっとむかついた。 いくらだからってそれはちょっとショックだったし、むかついたんだよ。 だから俺の気が済むまではは俺にいじめられるんだ。それくらいされたって当然なんだよ。」 「だから今日は寝たふりをしていたのね。」 「そういうコト。」 あたしの気持ちは見透かされていたし、 彼だって美しい顔を持ちながらも意地悪な心を持っていた。 あたしは芥川君の目をじっとのぞきこんだ。 「何?」 「芥川君はとても、意地悪なのね。」 「ははっ。そんなの今更だよ。俺の顔しか見てないから、わかんなかったんだよ。」 そこまで言われてもあたしは彼が好きなのだ。 なぜならそれほどまでに美しいから。 |