先週、母が死んだ。母はとても私によくしてくれた。
とても女性的な人で、時々その女性らしさに嫌気がさしてしまうときがあった。
だからなのか、あたしはあまり女性らしさというものを意識したくなかった。
それでも自分を産んでくれた母に変わりなく、悲しい感情がドッと押し寄せるかと構えてはいたが、
意外にも冷静なのである。お葬式も終わって、何かこまごまとしたややこしい手続き(そこは父に任せた)
も終わって、また変わらない日常が始まる。お葬式の間もあたしは涙が出なくて困った。
まるで周りがあたしの代わりに泣いているみたいだったし、薄情な子、と思われていたに違いない。



あたしは一人暮らしをしながら学校へ行っているから家の中に一人、というのは変わらない。
実家から自分のアパートへ帰るときに見送りに来てくれた父の背中が忘れられなかった。
見送りのときに言われた「おまえは母さんには似てないな」という一言も。
父はあたしに母の姿を重ねようと面影を捜したのだろうが、あたしは性格も顔も生憎母には似ていない。
20年くらい、連れ添ってきた人が死んだのだから、きっと、悲しくて悲しくてたまらないだろう。
でも、あたしはその気持ちを理解することができなくて、本当は実家にとどまって何日か父と暮らして、
父の、悲しさで打ちのめされた心を癒さなければいけないのだろうけど、あたしは自分のアパートに戻ることにしたのだ。




朝起きて簡単な朝食を食べてゴミを出して再び自分のアパートにもどる。
もう4日間ほど学校に行っていない。周りの同情がとても痛かった。
大して悲しいとも思っていないくせに、みんな、悲しそうな顔をする。
恋人にも会ってない。彼から連絡は無い。きっとあたしの気持ちを察したんだと思う。
暫く一人になりたいなと、そっとしておいてほしいな、と思っていたけれど、
心にポッカリ開いた穴を彼で埋めろともう一人の自分が頭の中で囁いている。
あたしは恋愛は心の穴を埋めるんじゃなくて、プラスアルファなものだと考えているから、
もう一人の自分の甘えた考えを沈めようと思ったが、気がつけば制服を着て学校へと向かっていた。



教室に入るとやっぱりみんな同情してきたし、やっぱりあたしも
「悲しくないのに悲しそうな顔しないでよ」と思ってしまった。
ジャッカルのほうを見ると少し心配そうな顔をしていた。








放課後になって、あたしはジャッカルを部室まで迎えに行った。
部室にはジャッカルしかいなくて、日誌を書いていたところだった。





「ジャッカル」

「一緒にかえろ。」
「おう。もうちょっとで終わるから、待ってろ。」
「うん。」




ジャッカルが日誌を書いている間、あたしはじっと彼を見つめていた。
コイツは、あたしが死んだら悲しんでくれるかな。
一応、悲しんではくれるだろうな。あたしのこと、好きだから。




「ジャッカル」
「ん?」
「好きよ。」
「いきなりなんだよ。」
「好き。」



あたしはジャッカルの体に自分の腕を絡ませてキスをした。
自分の中心がじんわりと熱くなるのを感じた。
ジャッカルはあたしを抱えてソファに押し倒した。
お互いの体温が高くなっていくのを感じる。



ゴメンねジャッカル。
心から好きだけど、その心に開いてしまった穴を埋めるために利用して。




でも、愛しているから、許してね。













下し て