突然の雨でおろしたてのワンピースから靴の中まで全部が全部、びしょ濡れになっちゃった。
早く彼の家に行ってお風呂に入りたい。そしてあったかいバスタオルにくるまって
ホットミルクを飲む。それはとっても幸福な時間。隣には彼がいる。なんて素敵。なんて幸せ。





思い思い


エスケープ





「おじゃまー。お風呂はいりたーい」
「君はちゃんとおじゃましますも言えないの?」
「びしょ濡れだから早くお風呂に入りたいの。」
「はいはい。」



精市はあきれながらも嬉しそうにあたしを迎えてくれた。
あたしは早速お風呂に入った。とりあえずもう、あたたまりたかったのだ。
湯船に入ると体が冷え切っていたのか、温かさで体がジンジンとした。
頭の上までお湯で沈めて、息が切れるところであがって、お風呂から出た。

精市の家にあらかじめ置いてあるあたしのジャージ素材のワンピースを着て、
リビングに行くと精市がちょうどホットミルクを作っているところで
あたしは精市を後ろから抱きしめる。




「どうしたの?」
「背中見てたら愛しくなって。」
「俺はいつでもを愛しいと思うけどね。」
「ほんと?」
「ほんと。」
「今日のびしょ濡れの姿だってもう、見た瞬間押し倒しそうになった。」
「ばーか。」
「男はそんなもんだよ。」




頭をくしゃくしゃと撫でられてあたしの胸の中が幸福感で満たされる。
ホットミルクを一緒に飲んで、キスをしてじゃれあって、2回ほどセックスをした。






最中に彼はよくあたしの手に自分の手を絡めてくる。
どこもかしこも繋がって、そして初めて2人の愛が完全になるんだよとかそういうことを
以前言っていたような気がするからもしかしたらそれが理由なのかもしれない。
「好き」と何回も言って、あたしはそれをあえぎ声で「あたしも」と答える。
とても幸せで頭が幸福感に耐えられなくなって爆発しそうなのに、
どこかで寂しさを感じるの、どうしてなのだろう、こんなにも満たされているのに。





いつの間にか眠ってしまったみたいで
横では精市が眠っている。女の子みたいなのに男なんだよなーヤるときゃヤる男なんだよなーと
思い、急になんだか可愛く見えてきて少しいじめたくなってしまったけれど、
無理やり起こされると精市は機嫌がすごく悪くなってしまうから、
あたしはワンピースだけ着てベランダへ出た。



雨はもう上がっていて、夕暮れがとても綺麗だ。
ピチャン、ピチャンとしずくの滴る音がして、雨のかすかな匂いが残っていて、
物悲しい気持ちになり、最中にこみ上げてきた寂しさが溢れそうになる。








精市はこれからもあたしを好きでいてくれる?

あたしは精市のことをこれからもずっと好きでいられる?

どちらかが先に死んだりしない?

あたしは精市がいなくても生きていけるのかもしれない。

精市はあたしがいなくても生きていけるのかもしれない。










風がビュッと吹いた。
髪の毛が顔に当たって少しくすぐったい。
さっきあたしがしたように精市があたしを後ろから抱きしめた。
いつの間に起きたんだろう。精市は本当に不思議な人。
だからテニス部のみんなに怖がられつつも尊敬されてるんだろうな。



「どうしたの?」
「天気がよくなった。夕暮れ、キレイなの。」
「ほんとうだね。けれど日が暮れると肌寒くなるから、早く中に入ろう。」
「うん。」



精市は手を差し出した。あたしはその手を掴んだ。彼が優しくあたしの手を握る。


精市とあたしはひとつになれない、どれだけ繋がっても個々のものとして存在が確立されているから。


それでもいい、時々言いようのない不安が押し寄せてきたとしてもいい。


精市と一緒にそれを感じることができるなら。